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STARTLINE 第11話 大介の過去
放課後。
吹きすさぶ一月の風が、容赦なく一人の少年の体を射る。
少年は金髪を風に揺らしながら、荒々しく大股で街を闊歩していた。
制服はホックもかけず、ボタンも上の二つが外れたまま。
手には何も持たず、その足は道端の空き缶を強く蹴っ飛ばしたりして。

強烈なキックをもろに受けた空き缶は街路樹やら建物の壁やらにぶち当たってはね返り、最後に、
「ぐはっ!い、いってえ・・・」
誰かの後頭部(しかもスキンヘッド)を強打し、そのままの勢いで近くのゴミ箱にナイスシュート。
「や、やべ・・・」
「てめえ何しやがんだオラァ!ん?そのツラ、どっかで・・・」
「うわ・・・マジかよ」
大介は慌てて踵を返し、大通りを目指して駆けだした。
「オイコラ!てめえ待て!」
追ってくるアイツは、中学時代の宿敵。

午前6時半。
浩之はびくっと体を震わせ、ベッドから飛び起きた。
ベッド脇のローテーブルに置いた携帯が突然鳴り出し、浩之お気に入りの曲で目が覚めたのだ。
「な、なんだよいきなり・・・アラーム設定してないのに・・・ん?松下から?」
サブディスプレイに映る友人の名前に、こんな時間に何だ、と怪訝そうな顔をしつつ、着信ボタンを押す。
山本、起きてるか?やばいことになってんだ!とにかく早く出てきてくれ!」
いつになく慌てふためいている佑哉の声に、浩之も緊急事態の気配を悟る。

朝食もそこそこに急いで学校に向かうと、下足室の入り口で佑哉朋美が待っていた。
三人で職員室に入ると、すぐに担任のがこちらに歩いてきて、部屋の後方にある面談スペースへ案内した。
「二人はすでに電話で知ってると思うけどね、」
初老教師は松下兄妹を交互に見ながら重々しく語りかける。
「実は昨日、不二くんが街で喧嘩沙汰を起こしたそうでね。居場所もわかってない。松下くん、彼から何か、聞いたりしてない?」
彼は生徒のことを男女とも、くん付けで呼ぶ。
「いえ、特に何も。携帯もつながらないし・・・」
佑哉は話しながらも携帯を開いてみたりしているが、その表情からするとメールは届いていないようだ。
彼はちょっと考え、ゆっくり顔を上げる。
「そういえば・・・最近あいつ、機嫌よくなかったですね。イライラしてるっていうか・・・。親友の俺が話しかけても、ずっと黙ったまんまで。何か嫌なことでもあったのか、成績のことなのか、そこまでは分からないですけど」
「そうか・・・。今、先生達が探しに出てる。僕もこれから行くけれど、君たちは教室に戻りなさい」
の表情や声は穏やかだったが、
「自分たちも探しに行こう、なんて思わないようにな。特に松下くん、君は。心配なのは分かるが、大丈夫だから」
くれぐれも暴走してくれるな、松下兄妹。
そんな強い思いを、浩之は感じるのだった。

「無茶すんなって」
「そうよ、お兄ちゃん」
朝のホームルーム(代役・副担任の木田)が終わった後の廊下で暴走しはじめた佑哉を、言わんこっちゃないといった顔の浩之と、結局心配のあまりホームルーム終わりに駆けつけた朋美の二人がかりで足止めしているのだった。
「だからって、このまま放っておけるわけないだろ!もしかしたら危ない目にあってるかも・・・」
「俺らが行って何になる?大体、当てがあるのか?」
「まあ・・・そうだけど」
ぱた、と佑哉の動きが止まり、納得したのか、と二人で顔を覗き込むと、
「でも!俺らが行ってやらなきゃ!大事な仲間だ。あいつは喧嘩なんてする奴じゃないんだ。俺は知ってる」
やはり、これでこそ佑哉なのだった。いつも血の気が多すぎで、関わった物事は大抵おかしな方向に進んで。だけどそれでも、どんな時もまっすぐに仲間を見つめている。

一瞬の沈黙。
朋美と目が合う。朋美はふっ、と息を吐き、仕方ないんだから、と悪戯っぽく笑って、浩之に頷いてみせる。
浩之も眉をハの字にして、行くか、と一言。
三人同時に走り出し、昇降口に飛び込んでいく。通りかかった教師の警告の声も、今は聞こえちゃいない。

休み時間の2−5はいつになく騒然としている。
不二くんが?」
「不良と喧嘩!?」
「昔、不良だったのか?」
クラスの女子のほとんどはなつみの席の周り、「なっち知ってる?不二くんのこと」とかなんとか口々に言い合う。なつみがそれを手を挙げて制すと、
「私も心配です。みんなもそうだと思います。なっちゃんの知恵を貸して。私たちも何かできないかしら」
2−5のアイデアウーマン・舞伽なつみの隣で発言する。
周りの女子たちも「クラスメートだもんね」「ちょっと怖いけど、悪い人じゃないと思う」などと口々に言ったり、それを聞いてうんうん、と頷く。
「まあ、こういうことはマイの方が得意とは思うが、何か考えてみるしかないな。マイ、協力してくれるか?」
なつみに力強く肩を叩かれた舞伽も、笑顔で頷く。

浩之たち三人は大介が喧嘩したという市街地のとある通りを探し回った。しかし大介の手がかりはほとんどなく、時間だけが過ぎてゆく。と、
「おい、見ろよこれ!」
記念すべき手がかり第1号は、道路脇のゴミ箱の側に落ちている黄色いマフラー。
佑哉がそれを拾い上げ、ゴミやら枯れ葉やらで薄汚れたそいつをしげしげと見つめて、
「これ、あいつのだ・・・。ってことは、ここにいたというのは間違いなさそうだ」
「とはいえ、まだ手がかりはこれだけね。他にも探しましょう!」
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STARTLINE 第10話 初日の出を見よう!
大晦日。
浩之たち8人は金澄神社にいた。
大晦日といえば、自分の家の一年分の汚れを掃除するのが常だが、実は彼らは今日のために、前日にそれを前倒しで済ませてきていた。
それは、
「おーい、雑巾替えてくれー」 
「はいはいー、喜んでー」
神社の掃除のため。
脚立を使い、高い所を雑巾がけする「掃除班」のなつみの手から、雑巾を洗って絞ったりバケツの水を替える「アシスト班」朋美へ雑巾が渡る。すかさず新しい雑巾にチェンジ。ちなみに朋美曰く、彼女はアシスト班ではなく「後方支援部隊」だそうだ。

「ちゃんと働いているかね、山本少将」
洗い場で雑巾をせっせと洗う浩之に声をかけたのは、バケツを運んできた朋美
「少将って・・・それに苗字で呼ばれるのって、なんか変な感じ」
「そう?下の名前のほうがよいかね?」
朋美がバケツの中身を洗い場にぶちまけ、浩之は黒っぽい汚水から流れてきた雑巾を素早く拾い上げて洗いはじめる。
「初対面の時からそうだったからね。というかさ、どうでもいいけど、なんか偉そうだよね」
「まあ、私は中将だからな。松下中将とでも呼びたまえ」
「はい、はい」
いつ下克上されたのかは知らないが、とにかく朋美はバケツに水を満たして運んでいくのだった。

三人の「アシスト班」の最後の一人、辰巳は例によってと一緒。大介佑哉はこちらも例によって雑巾がけのスピードを競い合う。普段舞伽とその友人によって手入れされている神社にも、やはり細かいところに汚れが残っているようだった。

「ふひー、疲れたよー」
今日一日、アシスト班として浩之も感嘆するほどの獅子奮迅の働きを見せた朋美が、きれいになった畳に大の字になった。他のメンバーも一様にぶっ倒れ、大介はうっかり手でも重なってしまったのだろう、「触るなバカ」とつみに手をひっぱたかれている。
神社の神主さんが鍋を持って現れ、舞伽が疲れも見せずに立ち上がって手伝う。
掃除のお礼ということで、今日の夕食は神主さんプレゼンツ・特製鍋パーティーである。

「やっぱ鍋つったら肉でしょ、肉」
「ちょっと、肉ばっか取らないでよ」
「うるへー、肉は全部俺のもんだ。に、く、しょ、く、じゅ〜」
佑哉朋美大介による肉争奪戦勃発中なのは奥の長テーブル。ちなみに朋美はちゃっかり野菜もちょこちょこゲットしている。
中央のテーブルに向かい合うなつみ舞伽が白菜派。手前のテーブルに二人仲良く座る辰巳はオールラウンダー。そして、
「うん、やっぱり豆腐うまいな」
カップルの向かい側、一人好みが渋い浩之。しかし「確かにおいしいよねぇ」との同意を得る。

「ふぅ〜、食った食った」
結局キムチ鍋やら雑炊やら神主さんオリジナル杏仁豆腐やらをいただいて、散々食べまくって再び畳に大の字の8人。朋美に至っては、おっさんのように寝っ転がって膨らんだ腹をなでている。
は「もう動けなーい」とかなんとか言いつつどさくさに紛れて彼氏に寄りかかり、頭をなでてもらっている。

こうして隅々まで美しく磨き上げられた神社での夜は更けゆき、大晦日の月は少し雲がかかってぼんやりおぼろ月。
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STARTLINE 第9話 クリスマスの嵐
12月24日。
クリスマスを翌日に控え、街はイルミネーションに彩られた。
ここぞとばかりに瞬く色とりどりの街灯りの下を、カップルが行き交う鈴華通り
そんなカップルを見ないようにして、はずんずんと通りを歩いていた。
隣に辰巳の姿は、ない。

ふん。何が「終わったら、たとえ何時であっても絶対に迎えに行く。だから、わかってくれ。頼む」よ。
あの時は何となく言いくるめられたけれど、結局のところ私より剣道、ってことなのね。
そりゃ、私だって馬鹿じゃないから、辰巳にとって剣道が大事だってことぐらいわかる。
だけど、なんでよりにもよってあの日まで。

「おっ・・・」
顔面に軽い衝撃。男性の声がして、顔を上げる。
山本浩之が、おなじみの面々とともに立っていた。
「あっ・・・ごめんなさい」
浩之の胸のあたりから顔を離すと、
「どうしたんですか、瀧本先輩。なんか元気ないですね。今日はイブですよ、イブ!」
こんな時に一番会いたくない娘。能天気ハイテンション娘こと松下朋美
「あ、分かった、神宮寺のことだろ?あいつ超忙しいもんな。クリスマスくらい休めっての。今剣道したってなぁ。床冷たいだけなのに」
こんな時だけ察しのいい松下兄。察しはいいけど、相変わらずそれをストレートに口に出しちゃう。

そして、断る間もなくハイテンション兄妹に連れ込まれた喫茶店。
正直この面々に話したところで何の意味もないと思ったら、
「それは許せませんねぇ。たんとおしおきせねば」
はぁ〜やっぱり。この兄妹が絡むと、物事のベクトルの進む方向は、ただひとつ。
「なるほど、では、我ら三人で乗り込むしかありませんな」
「ちょっと待て、いきなり俺まで巻き込むなよ」
「仲間だろ!仲間ならちゃんと手貸せよ」
良かった。まともなのも一人いた。山本浩之
ちょっと頼りないけど、この際彼に頼るしか。とりあえず・・・この二人止めて。


「でさ、これは何なの?」
わかる、わかるよ山本くん。私にだってさっぱりだもの。
首から下を見れば、ああこいつは剣道をやるんだな、って分かるんだけど、どうして頭部だけフルフェイスのメットなわけ?剣道には、ちゃんと面ってやつがあるんだけど。
曰く「神宮寺は剣道がめちゃくちゃ上手い。だから、確実に打たれる。でもこのメットなら痛くない」
・・・って。チャンバラか何かと勘違いしてるの?

そうして、剣道部のエースに真正面から挑もうとする(しかも相手の超得意分野)命知らずな兄妹と、なりゆきで巻き込まれた哀れな少年が、道場へ入っていった。
「たのもーう!」という朋美の無駄に威勢のいい声を背に、は取り敢えず兄妹に指定された場所へと向かった。

突如現れた怪しい侵入者たち(というか暴漢にしか見えない)を、意外にも辰巳は丁重に案内し、今や張りつめた雰囲気の中、のどかに道場を案内しだした。
意外すぎる反応に腰砕けに近い反応をしつつも、
「この道場の長はおまえだな?」
と凄んでみる朋美。が、
「先生ならちょっと用事で出てるが、呼んでくるか?」
軽くいなされてしまう。
このままでは埒が明かないので、
「と、とりあえずいくぞ!」
少々卑怯だが佑哉が後ろから襲撃、しかし、
クルッ、サッ、バチッ、ダンッ。
返り討ち、佑哉の胴に見事な一本。
「だめだだめだ、基本がなってないな。すり足は基本中の基本だぞ。それに、隙が大きすぎる」
言われてみれば、佑哉はドタドタ大股で迫っていった上に、思いっきり大上段から振り下ろそうとしていたのだった。上級者の辰巳からしてみれば隙だらけ、佑哉の技にかすりもせずに振り向きざまに斬り捨てたのも、合点がいく。 
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STARTLINE 第8話 紅葉町
長く続いた残暑がおさまると、涼しく過ごしやすい秋がやってきた。
街中の木々が赤や黄色に染まるため、この時期の街は紅葉町なんてあだ名がつくほどだ。
そのため高葉町にもたくさんの紅葉スポットがあり、その一つが金澄神社の裏山にあると、舞伽が教えてくれた。

その裏山にて。
「なあ・・・あの二人のこと、どう思う?」
だしぬけに、なつみが言った。
「うーん・・・あいつのことは俺が一番知ってるんだがな・・・今回ばかりはどうも」
道端の石を川のほうへ蹴っ飛ばしながら、佑哉が言った。
「正直言って、意外な組み合わせだよな・・・」
しばらく思案にふける二人。
と、
「ふふふ、いい作戦がありますぜ、お二人さん」
「おお!やってくれるか不二!」
「そのかわり、報酬はきっちりいただきますぜ」
「どうでもいいが、さっさと話してくれ」
佑哉大介の漫才に、なつみのインターセプト。
折角いいところだったのに、せめてお代官様のくだりまでやらせてくれよ、とひとりごちる佑哉をよそに、大介はいつになくてきぱきと手順を説明する。
なつみが脅威のスピードでメールを打ち、一斉送信。
「おい、今何やった?何やった!?」
大介の説明を聞きそこねた佑哉だけが一人、取り残される。

この瞬間、高葉町のどこかでまったくの同時刻に、二つの携帯が鳴った。
持ち主の一方は、
「先輩先輩先輩先輩・・・
ヒロユキ先パーーーーーーイ!」
「ふむ、3分51秒」
「早っ!」
松下朋美だ。

もう一方は、
「おっ!きた!・・・・・・・鮎だ!この川にもいたんだな、初めて釣ったぞ」
長置川で呑気に釣りを楽しむ少年、山本浩之
しかし、なつみのメールに気づく気配、なし。
「今度はあっち狙ってみっか・・・もっとでかい鮎いるかもな」
それ、と大きく竿を振り、川の真ん中あたりへ仕掛けを飛ばす。
すぐヒット。宣言通りの鮎。
「よーし、今日は好調だ。次いってみるか」
川面には、山のほうから流れてきたのだろうか、紅葉の葉がちらほら、水の青の中に赤く黄色く色彩を添える。

金澄神社の裏山、鮮やかな赤と黄色の色彩の下で、ニセの呼び出しを喰らった朋美大介に詰め寄っていた。
「じゃ、じゃあ、これって嘘だったんですか?」
朋美が見せつけた携帯画面には、なつみのメール、
山本浩之が危ない、金澄神社裏山」の文字。
「い、いや・・・嘘というか、ドッ・・・」
なつみが素早く反応し、大介を引き離す。
「暴露してどうする!?」
「だってよ、山本のやつ、いつまでたっても・・・」
「確かにそれは想定外だ。だが、しかし・・・仕方ない。ここは朋美にもご協力願おう」
「ちょっとそこ!何二人でこそこそ話してるんですか!」
額を寄せて緊急会議を開いていた二人は朋美の言葉で素早く離れ、ちょうど30センチの間隔にフォーメーションを取る。
佑哉はといえば、朋美の剣幕に押されうろたえるばかり。ちっ、こんな時に使えないやつめ。

「ほほう、そういうわけでしたか」
なつみの説明に、朋美は納得したようにうんうん、と頷く。佑哉大介がうまくごまかせたか、と人知れずほっとする中、
「そういうことなら、このわたくしに秘策がありますぜ」
「おおっ、やってくれるか朋美!そちも悪・・・」
無駄に張り切り、例の絡みをやろうとする佑哉に、
「いいから朋美、説明してくれ」
インターセプト(二度目)。佑哉は今度こそふてくされ、折角少し省略してやったのに、などとぼやく。
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STARTLINE 第7話 夏休みSP
夏休み。
浩之たちはそれぞれに忙しい日々を送っていた。
なつみは早くも受験を見据えた勉強を始めていたし、辰巳は剣道の練習(は相変わらずついて行っていた)、佑哉大介はバンド、舞伽は塾、といった具合だ。

一方、浩之は暇を持て余していた。友人たちと遊びまくっている朋美に度々誘いを受け、ありがたくついて行ったりもした。
夏も終わりに近づき、ようやく8人の都合がいい日ができたので、一同は駅前に集合した。
「悪い悪い、遅くなっちまった!」
大介が慌ててダッシュしてきて、なつみにお小言を喰らったところで、ようやく全員集合。
「遅いよ、もう時間やばいぞ!とにかく皆走れ!」
佑哉の言葉で、全員でプラットフォームまで走った。

この街に越してきて初めて、長置川を渡った。
隣の席の朋美もこの街の外に出るのは久し振りらしく、外の景色を飽きずに眺めていた。
まあ市街地が近くにあるから、わざわざ街から出るような用事なんて滅多にないからなんだけど。

白沢海岸駅で下車。
高葉市のはずれにある海沿いの地域で、美しい海岸線が長く伸びる。
シーサイドホテルもいくつか立地し、特に夏は観光客で溢れかえる。
海水浴場で一足先に着替えを済ませた男性陣が日焼けクリームを塗りつつ海岸を眺めていた。
夏の終わりとあって、今日はそれほど混んではいない。

「おまたせー!」
女性陣の先陣を切り、登場。
辰巳、早く行こう!」
「お、おい、ちょっと!」
辰巳の手を引っ張り、あっという間に連れ去っていった。
相変わらず仲がいいな、と微笑ましい光景を見ていた浩之は、
「おお、これだ!」
後から現れた朋美にいきなり腕をつかまれるのだ。
「ど、どうし・・・?」
「行きますよぉ、先輩!」
猛烈な勢いで引っ張られていく。そのスピードは辰巳ペアの約2倍。
「あいつら、いつからあんな仲になったんだ?」
あっという間に置いてけぼりを食う羽目になった4人が呆然とそれを見ていた。


「空が青いですなぁ、ヒロユキ先輩」
「そうですなぁ、朋美さんや」
浩之朋美はゆらゆらと水面を漂う。
辰巳はといえば、波打ち際で若さを爆発させてわいわいやっている。ベタなトレンディドラマみたいな光景だが、やけに微笑ましい、輝かしい二人。
佑哉大介はどこか遠くのほうでクロール対決中、なつみ舞伽は砂遊び。

ひとしきり泳ぎ、空腹のメンバーが海の家に集結。
朋美が焼きそば3皿を軽く平らげる一方、辰巳はデザートのカキ氷を仲良く食べている。
「おーい、これもうまいぞ!」
食欲爆発中の佑哉が焼き鳥を両手に持ってきた。
腹を満たした佑哉がビーチバレーをしようと言い出し、浩之朋美佑哉大介チーム、なつみ辰巳舞伽チームに(ほぼ松下兄妹の一存で)分かれたが大失敗。
辰巳なつみのダブル・ストライカーを一度に相手にしてしまったからだ。
それどころかのトスは辰巳と妙に息が合い、唯一の穴と思われていた舞伽も、ダイビングレシーブを敢行するなど意外に奮闘。
こちらも浩之大介のレシーブ組がある程度拾うものの、佑哉は気合が空回り、朋美も肩に力が入りすぎである。

「行くぞ、必殺・ファイヤーサーーブ!!
大介のファイヤーサーブ(自称)はコートのはるか上を越え、特大ホームラン。
「もう!何がファイヤーサーブですか!」
朋美のイライラも無理ないな、と、ヘラヘラ笑う大介を見ながら思う。

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STARTLINE 第6話 特技
今日は定期試験の結果が返ってくる日だ。
夏休みを前にして、俺たち学生にとってはかなり酷だよな、と思いながら、浩之はテスト用紙を受け取り、結果を見た。

「うわー、やっべえー」
後ろの席で、佑哉が吼えていた。
「どうだったよ、山本?」
「い・・・言いたくない」
「大丈夫、俺も悪かったから!なあ、どうだよ?」
何が「大丈夫」だよ・・・。
浩之だって、まるっきり勉強していないわけではない。むしろ佑哉のようにバンドをやっているわけでもないから、時間は十分にあるはずなんだけど。
「いや、まあ・・・悪かったけど」
「うわぁ・・・俺と似たり寄ったりだな」
「・・・ってオイ!見るなよ!」
浩之佑哉も似たり寄ったりの悪い成績に、二人してしばし落ち込む。
しかし佑哉は、
「ま、俺はバンドあったしな」
一足お先に開き直りやがった。
お前はそれでいいかもしれないけどさ、俺は・・・言い訳のしようもない。
一応、人並みにやっているつもりなのだが、どうにも俺にはセンスのようなものがないのだろう、と
浩之は悲観した。

しかし、このことをなつみに話してみると、なつみは一笑に伏してくださった。
「センスだけで上手くいくほど甘くないさ。何にしたって努力は必要だ。あとは、効率の良いやり方を見つけることだ。ダラダラやっても無意味だからな」
どうやらなつみは、その辺りのツボを完璧に押さえているらしい。
なつみとか神宮寺みたいな特技が、俺にもあったらな・・・」
「まあ、無理に見つけようとしなくてもいいんじゃないか?自分の魅力なんて人によってまちまちだしな。君は何か、好きなものはあるのか?」
「好きなこと、ねえ・・・」

と、
「おお、それだ!」
突然背後から大きな声がして、
浩之は飛び上がった。いつの間にか朋美が二人の間に割って入ってきていたのだ。
ヒロユキ先輩、ここはぜひこの私にお任せを!」
そう言うと、朋美
浩之の腕を引っつかみ、走り出した。
「ふぅ・・・相変わらずやかましい奴だ。それにしても、大丈夫か、あれで?」
一人その場に残されたなつみが呆れ顔で言った。
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STARTLINE 第5話 家出パニック!
高葉グリーンシティ
高葉商店街にほど近い集合団地だ。
閑静な住宅街に、男の子の声がこだまする。
「嫌だー、遊びたいー!」
「我慢しなさい。お兄ちゃんはバンドの練習で忙しいの」
母親の声。
「そんなのつまんないー!」
「わがまま言うんじゃないの!」
しかし、男の子は泣きわめきながら家の外へ飛び出していってしまった。


夏休みも近づき、浩之たちは5時間目までの補習授業を受けて帰ろうとしていた。
松下、今日もバンドか?」
「ああ、悪いな山本。来月のライブの為に猛特訓してんだ。新曲も作るしな」
佑哉大介は、来月街のライブハウスで行われるライブに向けて準備に余念がない。
ここしばらくはずっと、学校が終わると同時にライブハウスへ直行している。
と、佑哉の携帯が鳴った。
「もしもし・・・え?本当かよ?・・・でも大丈夫だろ、あいつの事だから・・・うん・・・いや、今は無理だよ、忙しいし・・・」
「何かあったのか?」
大介が心配そうな顔で言った。
「い、いや・・・大した事ないから。行くぞ、不二
大介も若干不安気な顔をしつつも、佑哉とともに行ってしまった。


「さっきから変ですよ。何か問題でもあったんですか?」
下足室で靴をはきながら、舞伽が言った。
なつみ朋美の顔を覗き込んで言った。
「どこか具合でも悪いのか?青ざめた顔をしているが」
「う、ううん、大丈夫です」
朋美は愛想笑いでごまかそうとしたが、鋭いなつみには通じなかった。
「何か困った事があれば言ってくれ。何でも聞いてやるし、何か手助けしてやれるかもしれない」
朋美はゆっくり顔を上げた・・・

浩之長置川で釣りをしていた。
水面に浮かぶうきをじっと見て、アタリを待っていた時、ポケットの中で携帯が鳴った。なつみからだ。
「もしもし、山本か?今どこにいる?」
「川だけど・・・」
「すぐ商店街に来てくれ!」
いつになく切迫した声に、浩之は急いで商店街に向かった。
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STARTLINE 第3話 「公認カップル」
神宮寺辰巳瀧本遥は、学校でも結構有名なカップル、いわゆる公認カップルというやつだ。
学校でも外でも、いつも一緒だ。
そもそも事の始まりは、が写真部の活動で、当時1年にして剣道部のエース級・辰巳の試合を見に行った際、彼と会って少し話しただけで一目ぼれしたことだった。以来、写真部そっちのけで辰巳の追っかけの一人となってしまったらしい。

相手が相手だけにライバルも非常に多い中、友人達が彼女を応援してくれたこともあり、ついに勇気を出してバレンタインデーに告白、見事カップルが成立し、今に至る。

辰巳ー、待ってよー!」
正門を出ようとした浩之辰巳の後ろから、の声が聞こえた。
「今日は一緒に帰るって約束したじゃない」
「ごめんごめん。でも、今日じゃなくて、今日だな」
辰巳が冷静に返す。
「えっと・・・俺、お邪魔だったかな?」
「あ、気にしなくていいよ!ね、辰巳
「ああ。行こうか」

三人は市街地に出た。
鈴華(すずはな)通りは、この街でも一番人気のある通りだ。高層ビルの多いこの辺りでは珍しく小ぶりな店が多く、ケーキ屋やカフェなど若者が多く集まる。
山本は、ここに来るのは初めてか?」
物珍しそうにきょろきょろしている浩之を見て、辰巳が言った。
「ああ。それにしても、この街は凄いな。本当に地方都市なのかよ」
「デートの時はよく来るんだ。いい店がいっぱいあるんだよ」
がウインドウショッピングを楽しみながら言った。


三人は服屋に入り、の買い物に付き合い(次から次へと服を選んでは試着していくを見て、「ひどい時は一時間や二時間も待たされるんだ」と辰巳)、“patisserie lemon”というケーキ屋に立ち寄り(選びきれずに4つもケーキを購入したを見て辰巳は「本当、女の子ってケーキには目がないよな」と言っていたが、そういう自分もしっかり3つ手に入れていた)、それからカフェに入り一服した。 
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STARTLINE 第2話 「松下兄妹」
翌日、眠たい目をこすりながら家を出ると、昨日の雨はすっかりあがっていた。
まだ水たまりの残る道を歩く。なつみはまだ出てきていないのだろうか。

駅を通り抜けるとき、改札口から浩之と同じ制服を着た一団が現れた。
浩之はその後について学校のほうへ歩く。

商店街が見えてくると、手前の道からも生徒が数人出てきていた。
周りを木に囲まれた住宅街からこちらの道に合流する小さな下り坂だ。
と、その道から見覚えのある男が一人、現れた。
「おお!山本じゃないか!おはよう!」
「おはよう。早速だが松下、お前寝ぐせついてるぞ」
「あー、いっけね、直すの忘れてたな」
その時、小道の先から高い声が聞こえてきた。
「おーい、待ってよぉー」
見ると、その声の主は松下に向かって猛ダッシュしてきた。
「もー、置いていくなんてひどいよ、お兄ちゃん!」
小柄な女の子だった。両手を膝に当て、はあはあいっている。
「お兄ちゃん・・・って、お前妹がいたのか」
「ああ・・・まあな。朋美ってんだ」
佑哉が答えた。
「もう、私無視して話進めないでよ。お兄ちゃん、この人だれ?」
「昨日転校してきた山本だ。俺はこいつに声かけた第一号」
「相変わらず、転校生キラーだねぇ」
それから朋美は俺のほうを向いて、言った。
「で、先輩、下の名前は?」
浩之だよ。山本浩之
「へえ・・・じゃ、ヒロユキ先輩って呼んでいいですか?」
「え?ああ・・・まあ」
朋美がぺこりとお辞儀する。
「それじゃ、ヒロユキ先輩、兄ともども、松下朋美をよろしくお願いします!」
隣で佑哉が「やれやれ、また始まったよ」という顔で妹を見ていた。 
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STARTLINE 第1話 「7回目の転校」
「ふう・・・これで通算7回目の転校だな」
学校へ続く坂を登りながら、山本浩之はつぶやいた。
彼は両親の仕事の都合で、今までいくつもの学校を渡り歩いてきた。
高校になってからは今回が初めてだが、中学時代だけ見れば4回と特に酷く、一つの学校に一年もいなかったことになる。

そんなわけで、浩之は今まで親友はおろか友達も数えるくらいしかできなかったし、恋愛などまるで論外だった。まあ、これは浩之の性格の問題でもあるんだけど。

高浦高校の正門から中に入る。
コの字形の校舎。中庭にはバスケットボールのゴールが二つ。

二階に上がると、ちょうど職員室から出てきた中年の教師と出会う。
「ああ、君だね。今からホームルームだから、一緒に行こうか」
頭が少し寂しくなりつつあるこの教師の後について、浩之は三階へ上がった。

2年5組。
浩之を入れると37人のクラス。
教壇に上がり教卓の前に立った初老教師の隣に立つ。
「みんな、おはよう。今日からこのクラスを受け持つ渡 銀一(わたり ぎんいち)だ。
そして、こちらが今日からこの学校の一員になった山本くんだ」

お決まりの光景。
というか、学期中の転入ならともかく学年の最初くらいあいさつ無しでも良さそうなもんだが。
浩之は当たり障りのない、いつも通りのあいさつをした。
すでに過去6回も経験済みだから、これくらいのことは何でもない。

浩之は指示された席に着く。
左側の短髪の男子は興味無さげにノートに落書きしているし、右側の女子は指を組み合わせてぼんやりしている。

休み時間になると、後ろの席から声をかけられた。
「よう!君、7回も転校したんだって?」
「ああ・・・まあな。親の都合で」
横目で見ると、右側の女子は相変わらずぼんやりしているように見えたが、こちらの話を聞いているようにも見えた。
「あ、俺、松下佑哉。バンドやってんだぜ!」
「へえ、すごいな。パートは?」
「ドラム!で、こっちの不二が、ボーカルだ」
いつの間にか、佑哉の隣に元気そうな男が立っていた。
不二と呼ばれた男はにかっと笑い、ピースをこちらに向けて、言った。
「ども、バンド『SUPER RED』のボーカル、不二大介です!
どうだ松下、この自己紹介、かっこよくない?」
「バーカ、俺のほうが上手くやるっての。っていうかお前さ、ノート借りるなら早くしたほうがいいぜ。もう一時間目始まるから」
「うわー、いっけね」
大介は慌てて、教室を出て行こうとする女子をつかまえた。  
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